今隆雪先輩

 今先輩と言えば天山、天山と言えば今先輩である。一時期、剣道部 の現三年目において天山ブームのようなものを引き起こした大きな理由の一つに今先輩の存在が挙げられることに異を唱える者はおそらく誰もいないだろう。そのような一般的な認識が形成されるに至るほどまでに今先輩は天山という中華料理屋を、いや、というよりも天山のラーメンを好み、また絶賛していたのである。さらには、その勢い余ってとうとう天山にアルバイトとして勤めるようにまでなってしまった。そして、現在に至ってもなお、アルバイトとして継続して働いているようである。天山のラーメンが好きだから、と言う理由だけでそこまでできるのであるから、よほど舌に合ったのだろう。また、三年目で同じく天山でアルバイトをしている河崎の話では、勤務中の食事はすべて天山の料理であるらしいから今先輩にとっては労務の対価として貸金だけでなく好物まで得られるのだからたいへん満足のいく仕事であろう。
 そのような天山大好きの今先輩の影響は多大であり、今や剣道部現役の中で天山のラーメンの味を知らない者はいないようにまでなった。さらに天山は北大周辺のラーメン屋の味に飽きかかっていた我々三年目に新たな味覚を提供してくれたのであり、また「おもいっきりラーメン」といういったいどういうつもりでそのような名前にしたのかいまいち理解し難いラーメンは少し多いばかりでは満足できない胃袋に充分な量も与えてくれた。かつ、それは良心的な値段であった。また、店のおばさんの人柄もたいへん良く、食べに行く度に過剰とも感じられる程のサービスを我々にしてくれた。特に印象的だったのは我々にジュースをサービスするためにおばさん自ら走ってペットボトルのジュースを買いに行ってくれたことと、毎回ラーメンにつけてくれるライスにいつも三年目の南が往生していたことである。そのような腹八分目を超えるサービスには毎度感動したし、儲けはでるのだろうかと不思議に思ったものだ。また、おばさんとの初めての出会いも衝撃的であった。おそらく学連の帰りであったと思うが、三年目の武藤と天山という新しくできたラーメン屋を覗きに行った時のことである。その時、店の中のおばさんはこちらに手を振ってきたのだ。本当に驚いた。あまりのことに、怯えて逃げてしまった。とにかく、このように天山は素晴らしい店なので今先輩が惚れ込むのも納得できる。ただ、個人的にはラーメンのスープの上で固まり始める大量の油をなんとかしていただきたいところである。
 私は一時期、今先輩が将来は新しい天山を開くつもりなのではないか、開いてみたらおもしろいのではと思っていた。天山とプリントされたTシャツを着て仕事に励んでいる今先輩を見てふと、そんな考えが浮かんだのだ。今先輩自身がどのように考えているかは別として、我ながら素晴らしいものであると思ったその提案はしかし、三年目には笑われただけであった。しかし、今先輩の天山に対しての惚れ込みようはやはりたいしたものであることに異論はなかろう。私自身がこれほどまでに他に惚れ込んだことがないので断言はできないが、これは運命の出会いの実例の一つと言えるのではないか。そのような劇的な出会いならば、ひょっとすると事がおもしろく運ぶこともあり得るかも知れないと今でも少しだけ懲りずに思っている。
 今先輩、どうか一つ考えておいてください。とても似合うと思います。