門田 展明

 私が剣道に出会ったのは小学一年の時であった。当時私は、二歳上の従兄弟と年子の兄と一緒にいたずらばかりしていた。見かねた祖母 に無理やり近所の道場に連れて行かれ、幸か不幸か三人仲良く剣の道 に足を踏み入れた。当時の思い出といえば先生に打ち込む度に転ばされ、胴紐が解ければ胴を外されて生身の胴を打たれる、とにかく痛い、辛い、臭いと三拍子揃っていた。そして小四で一度剣道をやめた。
 中学入学当時、サッカー部入部を決意していた私は、道場の先輩の口車に乗り再び剣の道を志す事になった。そして、中高六年間剣道を続け、小学生の時はどうでもいいと思っていた試合に対する考えも変わった。毎日ハードな稽古をして上達する楽しみ、相手に勝つ喜びそして負ける悔しさを知った。この六年間で剣道に魅せられ、高校卒業時私は心に決めていた。「大学でも剣道をやろう!」と。
 北大剣道部に入部し、何もかもが新鮮に感じられた。そして、今までの自分が如何に剣道に対して受動的であったかに気付いた。小学時代はもちろん、剣道に多くを学んだ中高時代も心底剣道を楽しめていなかったことに。しかし、この大学四年間で佐野師範をはじめ先輩、 同輩、後輩、多くの人達に刺激されながら、剣道に対して自分自身が正面から向き合えるようになった。そして、心底剣道を楽しみ、好きになれた。北大剣道部にはそんな魅力があり、私はそれを誇りに思っ ている。
 剣道を通じて多くの人と良い人間関係を築けたことは私にとってかけがえのない財産である。中でも同輩とは喜怒哀楽を共にし、時に激しく衝突することもあったがその分何でも言い合える深い関係が築けた。そして、十一名誰一人欠けることなく卒部できたことは私のささやかな自慢である。
 私にとって北大剣道部は、ほっとできる場所であり、自分自身が輝ける存在であった。しかしOBとなった現在、私は北大剣道部を現役時代とは異なるものとして位置付けるようになった。ほっとできる場所という点は依然として変わらないのだが、自身が輝ける存在ではないという点において大きく異なる。現在私は大学院に進学し、フィールド調査に携わり日々多くの感動を受け、色んな事を経験しながら将来の自分、つまり新たに自分自身が輝ける存在を模索している。
 無理やり剣の道に放り込まれた私であるが、剣道を通じて多くを学び、生きる糧を得た。そして今、私は北大剣道部を卒部した。しかし、剣道を卒業した訳ではない。道を歩むのをやめたのではない。 剣道の理念「剣道は、剣の理法の修練による人間形成の道である」これを確と心に留めてこれからも剣の道を歩んでいきたい。
 後輩の皆さん、皆は同じ志を持って北大剣道部に集い、剣道という共通の媒体を通じて一つの道を歩んでいると思います。しかし、その 歩み方は人によって異なるでしょうし、人から押し付けられるのではなく自分独自の歩み方を見つけられるはずです。私自身まだまだ未熟 者ですし、今後剣道をはじめ研究や遊びを通じて納得のいく道を歩んでいきたいと思います。時には立ち止まり、振り返ることもあるかもしれませんが、悲観せずに野心を抱いて前進していきたいと思います。 お互い頑張りましょう。
 最後になりましたが、四年間熱心にご指導下さいました佐野師範、ならびに諸先輩方、本当にありがとうございました。そして、大学生活の大半を共に過ごした同輩の皆、わがままに付き合ってくれた後輩の皆さん、ありがとうそしてこれからもよろしくお願いします。