剣道範士の称号受けて憶う

剣道師範  佐野 昭三


 平成八年五月八日京都で行れました称号審議会で図ずも剣道範士の推奨を受け、この度全日本剣道連盟会長より正式に称号授与の光栄に浴し心から感激しております。
 この道に志す者として身に余る光栄であるとともに身の引きしまる憶いで一杯です。範士といえば剣道界では最高の称号であり、徳操高潔、剣理精通、技能円熟した者となっております。私がいま顧りみて果して徳操高潔であり、剣理に精通し、技能に円熟しているか、どうか、誠に恥かしいかぎりであります。
 この資格要件は全剣連が画いている理想の範士像を示したもので、必ずしも現実の姿を示したものではないと考えます。「斯くあるべきである」との現想像と考えます。人間誰しも長所もあれば短所もある。しかし人間であれば自から短所を反省し、人の長所をとり常に白から謙虚に反省して人間として、社会人として、また剣道人として一層言動に注意して徳操高潔の域に一歩でも近づくよう努力が必要であります。人間とかく人の批判はするが自からの言動を反省する者が少ない。特に剣道界では範士ともなれば忠告をしてくれる人が少なく、独善的になり易い。だから常に反省を怠らず全剣連が求めている範士の理想像に一歩でも近ずく生活をしたいものと決意を新たにしている次第です。
 また技術面においても、剣理に精通し、技能円熟したものとありますが修業は無限であり範士といえども100%剣理に精通し技能円熟したものなどあるべきはずがない。しかし奥深い剣理を極めることはなかなか至難なことで、常に修業に心掛け、研鑽怠りなく他の長所をとり短所を補い味の深さを体得するよう心掛けることが大事であると思う。要は範士の称号を頂戴した以上、ますます切磋琢磨精進を重ね、日常生活においても称号を汚さぬようにしたいものと深く自省している今日この頃です。        

以上