剣道と姿勢


師範 佐野 昭三

 昔から剣道をやれば姿勢が良くなり、さらには長生きをするとも言われているのは、どこに原因があるのだろうか。それは次のような剣道ならではの特性があるからである。
 剣道で言う自然体の構えとは、人間自然の本位であり、いかなる打突にも、いかなる対応にも、常にこの姿勢で、何時いかなる時でもこの自然の姿を歪曲されることがないからである。いうなれば四六時中、人間本来の正しい姿勢を保ち、これを歪めることがないからである。
 宮本武蔵も「兵法身なりとのこと」という中には顔や肩から足の爪先に至るまで、そのあり方を詳しく書いてある。
これは正しい姿勢三か条
一、背骨を真直ぐであること 
二、頭がその上に正しく乗っていること 
三、全身がリラックスしていること
その他内面的には丹田とか呼吸とか大切な要素があるが、外面的には次の上三つの条件が正しい姿勢であると、
武蔵は最後のところに「兵法常住の身、常住兵法の身」と結論づけているが、これは「剣道をやるときの姿勢も、日常生活の姿勢も全て同一でなければならない」ということでこれがまた大変人生訓であり、実に貴い剣道の教理でもある。
 正しい姿勢は健康の基、人間は病気さえしなければ健康だと一般に思われているが、健康の「腱」とは体がすこやかなこ
とであり、「康」は心が安らかなことである。体が丈夫で心が豊かでなければ健康とはいえないのである。
 日常生活で姿勢を正すことは、自分の精神状態を常に正しく保持することであり、それが人間基本の姿勢であり、剣道の眠目人間形成の第一歩である。
 ある本に「竹蛇の訓え」いうのがあったが、それは人の心を蛇に例えた戒めの教えであった。蛇というのは何時もくねくねと回るのが習性であるが、その胴体と同じ大きさの竹筒の中に入れれば、もう曲がることも出来ない。それと同様に人の心もいつもころころと動くから「こころ」という、といわれるぐらいに常に動揺しやすいものである。姿勢を正して、その中に心を入れれば、もうその心は体に矯正され自堕落なこうどうはできなくなるものである。
 そのように心を以って姿勢を正し、姿勢を以って心を規制することが何より大事だという教訓である。剣道でも足腰を曲げ、ぴょんぴょん跳ねながら打って「勝てばいいじゃないか」という人もいるが、それは足軽剣道で正しい剣道の修行には役立たない。
 剣の心がやがて人生におけるその人の品位となり、風格ともなることを思えば、剣道修行の姿勢態度が、いかに大事であるか納得できると思う。

 心こそ 心迷わず 心なり
  心に心 心 許すな